韓国美術家賞(2014年)を受賞するなど、韓国を代表する写真家として近年大きな注目を集めるノ・スンテク(1971年、ソウル生まれ)。政治学を学んでいた1990年代初頭、労働運動の嵐が吹き荒れ多数の死者が出たにもかかわらず、真実は隠蔽され、また当時の軍事政権は自らを正当化するため、事実を捏造してまでも“北”の脅威が演出される状況を目の当たりにしたという。「真実とは何か? 隠されていることは何なのか?」。そのような疑問を抱えつつ、彼は写真家への道を選んだのだ。
スンテクは主に韓国の歴史や社会問題を作品のテーマに据えてきたが、一般公開されている軍事演習や武器販売会に訪れる市民の様子を撮影した「reallyGood, murder」シリーズは、科学や安全保障の名の下に兵器が礼讃され、さらに軍事ショーが娯楽化される現実に焦点を当てたものだ。まず、休日を楽しむ人々と軍事兵器が共存する風景のいびつさに驚かされるだろう。そして同時に、どこか現実をつきはなしたような写真の美しさが印象的だ。
以前、スンテクは影響を受けた作家として劇作家のサミュエル・ベケットやダダイストのジョン・ハートフィールドの名を挙げつつ、自身の作品では一般的なドキュメンタリーとは異なる表現をすることで、写真が客観的であるとする神話の危うさを強調しているのだという旨の発言をしている。そんな彼にとって、テキストもまた重要な表現手段となっているが、「reallyGood, murder」においても同名の文章を書き起こしている。映像作品のプロットを思わせるこのテキストは、戦闘機のパイロットを夢見たとある青年の告白で始まっている。「問題なのは、想定外の事を考えてしまうほどに冷酷であるということじゃない。考えないことが問題なんだ」。
“何を”考えないのか? それは端的に言えば「戦闘機は人を殺すためのもの」という事実だろう。この文章の最後に引用されたハンナ・アーレントの言葉は非常に示唆的だ。
「すべての人に罪があるというところでは、だれ一人として罪はないということになる。集合的な罪の告白は犯人が発見されないためのありうべき最良の安全装置であり、罪があまりに重いということは何もしないことのこの上ない口実になる」(ハンナ・アーレント『暴力について ̶共和国の危機』みすず書房P.152)
ひとりの写真家として現代の社会状況を冷静に見つめる彼の作品は、変化する社会情勢の中における個人のあり方について、普遍的な問いを投げかけるものだと言えるだろう。

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展示作品
全27点
1000 x 1500 4点
600 X 900 12点
400 X 600 11点

巡回可能期間:2018年まで
巡回会場:東京(2015年5月渋谷ヒカリエ然花抄院にて)

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